2020年に公開され,2023年5月にNetflixで公開され瞬く間にSNSのトレンド入りをした「ミッドナイトスワン」。
最後のシーンに衝撃的な内容が含まれており、
同時に疑問も湧き上がった読者もいたようです。
この記事では、ミッドナイトスワン主人公の凪沙が最後なぜ目が見えていなかったのか考察します。
こちらの作品はLGBT作品です。本編をご覧になった上でお読みください。


ミッドナイトスワンで凪沙が死んだ理由を考察
術後の処置不足で帰国してしまった

凪沙はタイにて性別適合手術を受けてきました。
その際に明らかに手術をしたことで体調が悪くなっており、
そのまま亡くなったのではないかと思われます。
その中でも発熱などを伴う術後感染症では?という意見もありました。
世界保健機関(WHO)による最近の研究では、手術部位感染(SSI)は中低所得国において頻度の高い医療関連感染で、外科手術を受けた患者の最大3分の1が影響を受けると言われています
ジョンソンアンドジョンソン SSI(手術部位感染)
このように医療技術は先進国から発展途上国によって差がありますので、
完璧な術式だったとしてもどこかで感染を起こす可能性はあります。
しかし術後感染症は術後約1週間以内におきますので、
帰国後のケアが足りなかった可能性があります。

になったはいいけど、サボったらこんなになっちゃった
凪沙のこの発言から見てわかる通り、
病院に通えずに十分な観察やケアが足りていなかったのでしょう。
術部位が壊死・感染を起こしていたため発熱していたと考えられます。
なぜアフターケアが疎かになったのか

実際に凪沙は帰国を焦っていた素振りがありました。
東広島に帰ってしまった一果を迎えに行った際に

女性になったから(母親として)迎えにきた
という発言がありました。
そのため、早く一果を取り戻したい一心で、
タイから日本へ術後経過や処置を十分に行うことなく帰国した可能性があります。
そして、一果を取り戻せずに帰ってきました。
映画ではここから寝たきりになるまでの描写は省かれていますが、
原作ではこの後ホームレスとなり凪沙の親友である瑞貴とボランティアさんのケアを受けながら、
寝たきりのおむつ生活になっていることが語られています。
術後のケアを日本で行わなかった理由で推察されるのは次の3つ。
- 一果を取り戻せずに、茫然自失となり何も手につかず自暴自棄になってしまった
- 手術にお金がかかりすぎて帰国後に処置を受けるお金がなかった
- 金銭的に安価な術式(合併症のリスクが高い)しか選択できなかった
個人的には1と2どちらもかなと思っています。
術後に失明したのはなぜか
術後合併症の可能性は低そう

本来術後合併症としては、脳や視神経を触る手術でない限り失明はなかなかありません。
しかし、全身麻酔の術後合併症で失明は症例数は少ないものの事例としては存在します。
しかし、それは次の条件下での合併症のようです。
- 腹臥位(うつ伏せ)での手術であること
- 全身麻酔であること
凪沙は仰臥位(仰向け)で術中に開眼していましたので、
腰から下の局所麻酔であったことが考えられます。
なので、術後合併症としての失明の可能性は低そうです。
過酷な条件下での生活が引き金?

しかし、低栄養状態で低血糖だったらどうでしょう。
凪沙はお金が尽き果てたことにより、十分な医療はもちろん
栄養状態も良くなかったことが考えられます。
考えられる3つの症状(病気)は次のとおり。
低栄養による中毒性弱視?

中毒性弱視の原因の多くは、栄養不良または有害物質です。
ときに栄養性弱視と呼ばれます。
この病気は両眼に起き、徐々に視力が低下していく病気です。
通常小児が多くかかるのですが、アルコール過剰摂取などによる低栄養状態の方も当てはまります。
迅速な治療を行うことで視力は回復しますが、
凪沙の場合元々病院にかかっていなかった可能性が考えられますので、
治療はしていなかったと考えられます。
低血糖による視力低下?

低血糖時には視覚異常の症状が発現します。
かすみ目や中心部の狭窄は訴える患者が多いのですが、
なんと数%程度は失明症状を訴える患者さんがいるというのです。
理由としては、神経の養分は糖であり、
そもそも糖を摂取しないと細胞や神経が正常な働きができないからです。
そもそも低血糖だと、意識障害や呼吸苦も出現しますので
映画の描写の凪沙と酷似しますね。
全身感染した敗血症による失明
敗血症とは感染症がきっかけとなって起きる、二次的な症状のことを指します。
具体的には、何らかの感染症を起こしている細菌などが増殖して炎症が全身に広がり、
その結果、重大な臓器障害が起きて重篤になっている状態のことです。
敗血症では、失明を伴う患者さんもいます。
凪沙のように病気治療中・低栄養状態でで免疫力が低下している人は、
感染症から敗血症を起こすリスクが高くなります。
凪沙の受けた性適合手術とは
性適合術は5種類ある

日本形成外科学会によると、性適合手術は5〜8種類ほどあります。
- 陰茎・睾丸摘精巣切除術
- 膣形成術(陰茎・精巣切除術後)
- 豊胸術
- 顔の形成術(前額、鼻、下顎の骨切り手術など)
- 喉仏の切除
- 声を高くするための声帯の手術
- 女性ホルモン療法
- 脱毛
主に1〜3の手術が難易度が高く、治療費も高額です。
国内で公的医療保険の適用が認められている病院は数が少ないのです。
特に、血液量の多い下半身の手術や切除が含まれるため
術後のケアも念入りに行われます。
凪沙が行っていた手術も1〜3のどれか・組み合わせだったかと考察されます。
手術部分が壊死し、常に発熱しているようになって数か月が過ぎた
と原作であるため、切除部分が感染を起こしていたにもかかわらず放っておいたのでしょうか。
しかしながら、凪沙の描写で気になっていた
この手術で、あんなに下半身から出血は出るものなのか?
というのが観た人の疑問のようです。
現代の医学ではあんなに出血しないがかつては大出血の恐れがあった

実際には、凪沙のようにアフターケアを怠ったとしても、
皮膚の壊死や死に至るということは、現実には起こりにくいようです。
皮膚の動脈にしっかりと血が行き渡るようにして膣を形成します。
しかし壊死するとすれば血の巡りが悪い先の部分の皮膚に可能性があります。
前述した皮膚の壊死は現代の医療ではなかなか稀なことですが、
手術を始めたばかりの20年前ごろは皮膚の一部が壊死することはあったそうです。
岡山大学医学部保健学科学科長の中塚幹也さんによると
手術直後に皮膚が壊死してしまい、帰国後に何もせず放置してしまったということも考えられますが、
もし皮膚が壊死したとしても、作った膣が狭くなってしまうだけで、
大体はそのまま治ってしまうことがほとんどです。
手術から1年後におむつを履かなければならないほどの膿や血が出たり、
失明したりすることは通常は考えにくいと思います
なので、凪沙のおむつを履いて下半身が血だらけという描写は、
現代の現実では起こりにくいものなのでしょうね。

- ジョンソンアンドジョンソン SSI(手術部位感染)
- ハフポスト 映画『ミッドナイトスワン』の結末や、性別適合手術の描写をめぐる賛否両論から考える
- 日経メディカル 第3の地雷 IVHや外科手術に潜む失明のリスク
- 日経メディカル 低血糖障害時の視覚異常で75%が目のかすみを経験、事故につながるおそれも
- MSDマニュアル 栄養欠乏性視神経症
- 日本形成外科学会 性同一性障害
まとめ
草彅剛さん主演のミッドナイトスワンについて、
最後の死因や失明の謎について迫りました。
厳密な死因の特定はできなかったものの、
置かれた環境下によるものではないかという考察でした。
また、現代の医学ではほぼあのような術後の出血はないということでした。