「もののけ姫」のタタラ場のシーンで登場する包帯の村人たち。
彼らは業病と言われた病ハンセン病患者です。
今回は劇中のハンセン病患者の描写や、
彼らを描いた監督の想いなどについて、
深堀りしたいと思います。
ネタバレを含んでおりますので、本編ご鑑賞後に記事をご覧ください。
「もののけ姫」包帯の村人の業病とはハンセン病?
ハンセン病患者を描いている

https://flying-fantasy-garden.blogspot.com/2016/07/blog-post_29.html
アシタカが行き着いたタタラ場。
タタラ場とは砂鉄から鉄を取り出す作業をする場所です。
エボシという女性リーダーが仕切っており、
人々の生活をより豊かにするため、
森を切り開きながら鉄や武器を作っていました。
エボシはアシタカに、
私の秘密を見せよう
ここは皆、恐れて近寄らぬ私の庭だ。秘密を知りたければ来なさい。
と言い、別棟に連れていきます。
そこで生活していたのが、
体の様々な場所に包帯を巻いた人々でした。
彼らは業病と言われた病ハンセン病患者です。
ハンセン病患者は差別されていた
本作の舞台は室町時代とされていますが、
この時代からハンセン病があったことが確認されています。
現代のように治療法がなかったため、
ひどい差別を受けていたと思われます。
不自然なほど体中に包帯を巻いている理由は、
皮膚を清潔にする理由だけでなく、
病気を隠しているのでしょう。
しかし彼らは、
痛々しい見た目とは裏腹に、
普通に話すことができ、
石火矢という新しい武器作りに精を出していました。
エボシが引き取り看病していた

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
アシタカの呪いがかかった右腕は、
森を奪うエボシへの憎しみから、
エボシを殺すために刀を抜こうとします。
そこで長と呼ばれる老人が語り出します。
最も重症である彼は全身が包帯で覆われ、
寝たきりの状態でした。

https://flying-fantasy-garden.blogspot.com/2016/07/blog-
どうかその人を殺さないでおくれ。
その人はわしらを人として扱って下さった、たった一人の人だ。
わしらの病を恐れず、わしの腐った肉を洗い布を巻いてくれた。
と話しています。
ハンセン病患者によって描かれたエボシの姿

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
鉄のために森を奪うエボシは、
アシタカやサンたちの敵です。
しかしハンセン病患者たちの登場によって描かれたエボシは
決して悪人ではないことがわかります。
優秀なリーダー

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
エボシは差別を受けるハンセン病患者であっても、
他の村人と同じように仕事を与え、
彼らの世話までしています。
人々に恐れられている感染病を患っている彼らを
見捨てることなく、愛情も示しています。
エボシがいなければ、
彼らは人として生きることはできなかったでしょう。

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
タタラ場で働く女性たちが、
非常に生き生きとしているのも、
エボシが男女差別することなく接しているからだと思われます。
どんな人に対しても偏見を持つことなく接するエボシは、
非常に優秀なリーダーと言えます。
だから誰からも信頼され、尊敬される存在なのでしょう。
優秀な経営者

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
村の人々の生活を豊かにするためには、
経済力が必要です。
そのためにタタラ場の女性たちは製鉄をしています。
またその村の人々の生活を守るためには軍事力も必要です。
そのためにエボシはハンセン病の患者たちに、
武器開発や武器作りをさせているのです。

https://flying-fantasy-garden.blogspot.com/2016/07/blog-post_29.html
ハンセン病の患者たちは、
全身包帯だらけの痛々しい姿ではありますが、
普通に動き、働くことができます。
感染リスクなどの懸念から、
他の村人と一緒に牛飼いやタタラ踏みはできなくても、
武器作りはできる。
彼らのマンパワーを利用したシステムを作り出したエボシは、
優秀な経営者と言えるでしょう。
「もののけ姫」で包帯の村人の業病(ハンセン病)の人々を描いた理由
侍でも貴族でもない人物を描きたかった

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
宮崎監督は、
2016年1月28日に「ハンセン病の歴史を語る 人類遺産世界会議」に登壇。
「もののけ姫」のキャラクターは
ハンセン病患者に由来していることを語り、
そこに至るまでの経緯を語りました。
日本を舞台にした時代劇の企画を立ち上げていた宮崎監督。
その過程で参考にしたのが、
「一遍上人絵伝」「縁起絵」などの資料だったそうです。
そこに描かれていたのは、
・乞食
・非人
・ハンセン病の人たち
など、ありとあらゆる庶民でした。
これこそ本当の民衆の姿であり、
このような人たちが登場する映画を作りたい
侍でも貴族でもない主人公を描きたい
と強く感じたといいます。
2019年に国立ハンセン病資料館で講演を開いたときには、
侍と百姓だけの時代劇が取りこぼした人を描こうとした。
もっとたくさんの人たちがこの国で生きてきたのに、
あいかわらず武士と百姓だけで物語をつくるのは間違いだろうと思った。
と語っています。
「業病」と呼ばれるハンセン病を描く必要があると思った

https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
しかし貴族、侍、百姓以外の人物を描く時代劇という構想がありながらも、
行き詰まりを感じていた宮崎監督。
そんな時、
考え事をしながら近所を歩き回っていると、
自宅から15分ほどの場所にある全生園に行き着いたそうです。
全生園とはハンセン病の療養所。
存在は知っていても多忙を極める生活の中、
今まで訪れる機会がなかったといいます。
しかし一度その場所に足を踏み入れた監督は、
ハンセン病の人が生きた証しが山のようにあった。
おろそかに生きてはいけない。
作品をどのように描くか、真正面からきちんとやらなければならない。
と感じたそうです。
さらに、
実際にハンセン病らしき人を描きました。
その扱いについて、無難な線ではなく、
はっきり「業病」と呼ばれる病を患いながら、
それでもちゃんと生きようとした人々のことを描かなければならないと思った。
と語りました。

https://flying-fantasy-garden.blogspot.com/2016/07/blog-post_29.html
包帯の村人のシーンでは、
全身を包帯で巻いた人々の描写の他、
左腕を失った人物や、
目以外を包帯で覆われた寝たきりの「長」など、
目を覆いたくなるようなシーンがあります。

https://flying-fantasy-garden.blogspot.com/2016/07/blog-
エボシに対して
その人はわしらを人として扱って下さった、たった一人の人だ。
わしらの病を恐れず、わしの腐った肉を洗い布を巻いてくれた。
など、彼らがひどい差別にあっていることがわかる
セリフもありました。
このような描写をきちんと入れることで、
ハンセン病患者の残酷な歴史と
しっかり向き合おうとしたのでしょう。
ハンセン病とは?

ハンセン病はとは、らい菌という菌に皮膚や神経が侵される感染症。
手足や顔の変形や、皮膚がただれるなどが主な症状。
1873年にらい菌を発見したノルウェーのアルマウェル・ハンセン医師の名前から、
ハンセン病という病名になりました。
「らい病」と呼ばれ、1931年に「らい予防法」が制定。
患者は強制的に隔離され、家族も強い偏見や差別を受けました。
平成8年に「らい予防法」は廃止。
現在は治療法が確立されており、完治する病気となっています。
現在は感染力が弱く、
遺伝病でもないことがわかっています。
ひどい差別を受けてきた

しかし当時は感染力や遺伝をおそれ、
さまざまな差別があったといいます。
・家族と離れ、療養所に隔離される
・家族が差別されないように名前を変える
・一生療養所から出て暮らすことができない
・療養所内で結婚しても子どもを持つことができない
・断種・堕胎・不妊手術を強制される
このような信じがたいことが起きていたそうです。
怖いのは病気そのものではなく、
世間の雰囲気や、社会の空気だった
というハンセン病患者の証言もありました。
宮崎監督はこのようなハンセン病患者の悲しみに
向き合おうとしたのですね。
「もののけ姫」包帯の村人の業病のハンセン病は最後に治った?
治ったシーンがある
もののけ姫で
アシタカとサンがシシ神を救うラストシーン。
タタラ場に緑が戻り、
アシタカにかかった呪いも消えました。
しかしこの時、
ハンセン病も治ったという描写がありました。
包帯を巻いたハンセン病患者と思われる女性が、
自分の手のひらを見て驚くシーンがあるのです。
シシ神の力によりハンセン病が治った
ということなのでしょう。

https://ghibli.jpn.org/report/mononoke-9/
本作のキャッチコピーは「生きろ。」です。
アシタカがサンに対して言った
生きろ、そなたは美しい
というセリフが印象的でしたね。
しかしこの「生きろ」は、
ハンセン病患者へ向けたものでもあるのかもしれませんね。














まとめ
今回は、
「もののけ姫」の包帯の村人たちが
業病とされるハンセン病患者であったことについて
まとめてきました。
彼らの登場により、
浮き彫りになったエボシの真の姿。
また宮崎監督からの
ハンセン病患者に向けたメッセージも感じられることが
わかりました。
本作を鑑賞する際には、
彼らの活躍にも注目したいですね。